上も下も、左も右もなく、浮いているわけでもなく、漂っているのでもなく、ただあるような感覚だ。何もかもが渾沌としていて、それは全体と自分の区別さえつかないような、更にいえば、感覚といった言葉でも表せない在り様だった。
「ここはどこなのだろう」洋一はつぶやいた。
奥ゆきもなく、昨日も今日も分からない不思議な雰囲気だ。つかみどころが無いような存在感と言ったらいいのかもしれない。
それでいて、意識はとても鮮明だった。音も光も無いなかで、意識なのか、もしくは、これが気とか魂というものなのかも分からなかったが、きっぱりと覚醒し、爽快であった。
全てがつながった気がした。全能性とも言い換える事の出来るエネルギーなのかもしれない。言葉で言い表せば瞬時に消えてなくなりそうな存在でもある。そして、それが自分自身のことなのか、全体を現わすものなのかなど、もはやどうでもよかった。時間も空間もなく、ただただ渾沌としていた。
「そうだ、この感覚だ。初めてじゃあない。最初からあったのかもしれない。」
苦しみもない、怒りや迷いもない、やさしいあたたかさに包まれた命の自覚だけがそこにあった。
「そうだ、俺はここにいたのか」と、洋一は思った。
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