1-3.強迫する観念

自分自身の意に反する観念が　心にふと現れることがあります。

罪深い内容であったり、良心に反するようなことが、何かのきっかけで出現します。それは自発的なものではなく、勝手に心の中に現れます。

意に介さず、さらりと受け流すことができればいいのですが、そのような観念が、ときとして執拗にまとわりついてくることがありませんか？

私を脅迫する観念

現れ出る観念が何か悪いイメージのものであったとき、それは私自身の意識から生み出されたものではないと、否定したくなります。

そして、自分自身を正当化するような弁解を始めます。あるいは、観念に対する償いの言葉を、呪文のように唱え続けます。

弁解や償いの呪文のみならず、特定の行為を何度も繰り返してしまうことさえあります。

そうした行為は、周囲の人たちが気づくこともあれば、本人が意識して、気づかれないよう振る舞う場合もあります。

いずれにしても、それは強い苦しみを伴います。強迫性障害と病名診断されるようなケースもあるでしょうが、そうではなくとも、観念の支配に苦しんでいる人は存在します。

自分を意識できているのに

強迫性障害の人を含め、観念の強迫を受け、その支配に苦しんでいる人々は、ほとんどの場合、自分自身のことをちゃんと認識できています。

自分の言動が、どのように周囲の目に映るのかを意識しています。観念を否定するための呪文も、振る舞いも、はた目からは異質なものであることを理解できているのです。

だからこそ、誰にも相談できず、心の苦痛をひとりで抱え込んでしまいます。人知れず、自身の内面から生まれてくる、受け入れがたい観念に耐え続けているのです。

私の正体

私は、私という、ひとつの存在であるはずなのに、その中に異質の何かが潜んでいる。

その何かは、他人には理解しがたいものです。自分自身を脅迫し、苦しみを与え続ける観念は、とうてい理解してもらえるような内容ではありません。

人知れず、私の中に現れる観念に襲われる苦しみは、どこに救いを求めていいのか、誰に助けてもらえばいいのか。行き場がないままに、自己コントロールもできず、拘束され続けます。やりたいことには着手できず、貴重な時間を失い、心も体も消耗しきってしまいます。

そして、現れてくる観念を、私自身の仕業と捉え、罪悪感に悩まされます。負い目、責任を感じ、償いや弁解に懸命になります。心の中で、観念を否定したり、詫びたりすることをやめられなくなってしまいます。

また、意味を持たないことにすら、神経をとがらせてしまうことだってあります。

道を歩いていて、何かをまたいだだけで、罪悪感や恐怖感を感じてしまいます。その結果、またいだところに戻り、なんどもやり直そうとするのです。一度や二度では気が済まず、行ったり来たりを、何度も繰り返します。なぜなら、そうした状態に陥ることで、別の強迫観念が、さらに襲ってくるからです。強迫観念に伴う、強迫行為はエスカレートし続けてしまうのです。

このような病的な場合に限らずとも、自己矛盾した観念にストレスを受けた経験は、誰にでもあることです。

なぜ、私を苦しめるような「私」がいるのでしょうか。そして、その「私」とはいかなる存在なのでしょうか？

抜け出せない苦しみ

だれしも、私とはひとつの存在である、といった認識をもっているはずです。その私が意に沿わない観念を生み出し、自分自身をコントロールするのですから、抵抗の仕様がありません。

物事を考えているのは、私自身の脳であり、その脳はひとつしかありません。ひとつの脳が、相反する意識や観念を持ってしまった場合、どちらが主体で、どっちが客体か、わからなくなってしまいます。

いっそのこと、自分を自覚できなくなれば、苦しまずに済むのかもしれません。でも、私という意識は明確であり、だからこそ悩み苦しむのです。

支配されている

極端な例ばかりあげてしまいました。でも、観念による支配は誰にでも当てはまることなのです。

だれでも、常に、心の中、頭の中には、何かしらの観念が浮かんでは消え続けてるものです。絶えず雑多な、多種多様の思念が渦巻いています。

そして、通常はそれらに囚われることなく、無意識の中でやりすごしている”つもり”になっています。”つもり”という表現をしたのは、無自覚の内にコントロールされているという意味です。

日常生活をおくるなかで、私たちは怒りや恐れ、悲しみ、喜び、迷いなどの感情により動機づけられ、観念に従った行動を起こしています。無自覚の力に動かされているのです。

自立的な判断・選択・行動は、1パーセントにも満たないのではないでしょうか？

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