28. ソレイユ

「洋一と連絡取ったか?最近」と純が直ヤンに聞いた。

正月ということもあり、東京の復興もままならない中、湯本や純が仙台に帰省していたのであった。仙台の国分町という繁華街に地元の同級生が店を持っていた。女の子が何人かいる“ソレイユ”という名の店だったが、同級生の名前から“英策の店”いい、高校時代の友達が集まるたびに使っていた。

湯本は店の女の子を巧みな話術で笑わせ、からかっていた。仕事となると純の話術はまるで天職というように異彩を放ったのだったが、こと女の子となると圧倒的に湯本に部があった。それについては誠に天才的で、決して見た目がカッコいいとか、そういう事ではないが、女の子をコロコロと掌の上で遊ばせるように会話を盛り上げ、笑わせ、英策の店でも人気者だったのだ。

それを横目に、というか純と直ヤンが洋一のことを気にしていた。もちろん、店の女の子を笑わせつつ、湯本も会話をしっかりと聞いてはいたのだが。

「電話もつながらないよ」と直ヤンが洋一の気持ちを理解しているように答えた。

「直ヤンでもだめか」と純が言った。

「電源切っている事も多いし、呼び出していても出てくれないな」と直ヤンが答えた。

「そういえば、ひと月くらい前に正文も電話で言っていたけど、昼から飲んだくれているみたいだよ」と純が言った。正文は洋一の近所で、ずっと地元で仕事を続けている同級生だ。

「あいつ、顔出しているのかな、洋一の家に」と直ヤンが言った。

「小さなころからの幼馴染だから、鍵が開いていれば別に断りもなく上がって行くからな、あいつ。洋一のお袋さんとも馴染みだし。」と純が言った。

「かといって、俺らがどうのこうの出来る事でもないぜ。あいつがどうにか抜けきらないと。俺も正文には聞いたけど、半ばうつ状態らしい。」と湯本が言った。

「病院に行けと言われて、『ハイわかりました』と行くやつでもないしな」と純が言った。

英策の店の子は、こうした場合の躾も行き届いていて、黙って横でウィスキーの水割りを作っていた。

「そういや、山川誘わなかったのか?」と純が湯本に聞いた。

「ちゃんと誘ったよ。『みんなで会うのは楽しそうだけど、国分町まで行くの面倒だって』電話で言ってたよ。『みんなによろしくなって』。そえと『今度小屋にも遊びに来い』だってさ」と湯本が言った。

「あいつも変わってるな。まあ、以前から山ん中とか、自然とか好きなヤツだったけどな」と純が言った。

「東京の大震災で、なんかみんな大小さまざまだけでど変わってきた気もするよな」と直ヤンが言った。

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