「ホテルの荷物、あしたの分の着替え以外は送っちゃうからね。」と、絹江が洋一に話しかけた。明日の新幹線で仙台に帰るつもりでいた。手荷物だけ残し、それ以外はホテルのフロントから宅配便で送れるよう絹江はせっせと荷物をまとめていた。
「2週間以上いたら、こんな部屋でも愛着湧いてきたよ」とベッドの上で胡坐をかいている洋一が言った。「新幹線のチケット、ヨウ君の鞄にちゃんと入っている?確認して。」と言った。何もする気のない態度の洋一を横目に、絹江は2週間分の荷物やら土産物やらを自分のベッドの上で忙しそうに整理していた。
東京に来てから買った一升瓶の栓を開け、残りの日本酒を部屋の備え付けのグラスへ半分ほど注いだ。それを一息に空け、ベッドサイドの小さなテーブルへ置いた。銘柄などは何でもよく、酔えればいいといった飲み方だった。
「もう、ヨウちゃんばっかりずるい。やーめた。私にもちょうだい。」と絹江が洋一のベッドの上に飛び乗ってきた。洋一は、自分が今しがたテーブルに置いたグラスに日本酒を注ぎ絹江に渡した。「ありがとう」と絹江がにっこりとした。
絹江はそれを両手で持ちながら、軽くグラスに口をつけた。そして、「帰ったらどうする?」と洋一に聞いた。
「一緒に暮らそう。」と洋一が言った。絹江もただ一言「はい」と答えた。何も具体的な事は言ってもらえなかったが、それでも絹江は幸せだった。そして洋一へ静かに口づけた。
しばらくベッドでまったりとした後、絹江はまた残っている荷物の整理を始めた。そして大きなスーツケースと手持ちの鞄が部屋の片隅にまとめられた。「これであとは大丈夫ね。今晩の着替えは分けておいたから、試合から戻ったらちゃんと着替えてね、ヨウちゃん。」と絹江が言った。
「それじゃあ、少し早いけど行こうか」と洋一が言って、部屋の扉を開けた。絹江がすぐ後に続いた。
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