僕は次の日もCOUNTを訪れた。
どうしてまた翌日も来てしまったのか、眞野自身にもよくわからなかった。あのレコードジャケットがなんとなく気になっていたのかもしれない。体の奥底に響いてくる音圧に誘われたような気もする。
音楽自体にそれほど興味を持たない眞野にとって、そこは異空間に思えた。時間とか、空間といったものが、まるで意思を持っているような、そんな雰囲気が漂っていた。
まだ少しだけ戸惑いもあったが、今回は立ち止まらず扉を開けることができた。奥へ進むにしたがい、適度な薄明かりが眞野を柔らかく導いてくれる。例の黄色くぼんやりと浮かんでいるターンテーブルはカウンターの右端にある。
テーブル席の方に目をやると、この前座ったところには先客がいた。特に場所にこだわるつもりもなかったので、空いている別のソファーに腰かけた。先客とスピーカーの間を、遠慮気味に腰をかがめて横切った。あえて腰を低くする意味はなかった。そんな自分のしぐさを滑稽に思いつつも、テーブルまでたどり着いた。
スピーカーに向かって左の壁沿いにある席だ。座るたびに亀裂が増えそうなパキパキとしたソファーは、木枯らしで冷えた体に硬く当たった。カバンを自分の体の置き、その上にコートを丸めた。
正面にはカウンターが横たわっている。銀盆の男がこちらに近づいてくるのがわかった。眞野のことを覚えていたらしく、無表情なまま目を合わせてきた。男は何も言わずに水の入ったコップをテーブルに置き、そのまま立ち去った。
メニュを持ってきてくれなかったので、しかたなく店内を見回してみた。別のテーブルに座っている客はウィスキーかバーボンのロックか何かを飲んでいるようだ。カウンター越しの壁に黒いボードに白い文字が書かれていた。それがメニュらしいのだが、きっとカウンターの客しか読めないだろう。
眞野は奥にいる銀盆の男に向かって片手を上げた。男はそれに気づいてくれた。テーブルまで来た男に、「ビールください」と注文をした。男は「瓶ビールですね」と答えから戻っていった。
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