16. Cool Struttin

カウンターの女性客がレコードジャケットを手に取り席に戻った。そして銀盆の男とレコードについて話し始めた。

眞野は女のふくらはぎを眺めながら、瓶に残ったビールをコップに注いだ。柿の種の小さな破片がコップに浮かんでいた。酔いが心地よくまわり、心が勝手にさまよい始めた。

視線をぼんやりと曇ったガラスコップに移した。「あの黒い魚は、こんな小さなコップのなかでは泳げないだろう」と妄想が廻ったが、それを遮ることもせず放っておいた。

コップの上には青い空が限りなく広がっている。
永遠の宇宙へと続く大気が吹き上げている。それほどまでに広く大きな空でなければ、あの巨大な鳥が羽ばたけるまでに風が集まらないのだろう。大きな翼に十分な大気をはらんで、始めて青々とした南の空を目指すことが出来るのだろう。

「俺なんか飛び立つどころか、その辺の小さな木の枝にさえとまることができないのに」と、青い空を羽ばたける大きな鳥をうらやましく思った。

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