17. やがて行く季節を知らず

少し前の眞野であれば、そんなもの大げさで、ただ無用なだけのものと思ったかもしれない。

いつも地面ばかりを見て青く広がる空を見上げようともしない小鳩のようなものだ。
小鳩が大鳥のことなど、どうして理解することが出来ようか。「僕には到底南の果てのことなど知ることはできないな」、そう思った。

「もしかしてあれは何かで昔読んだことがある大鵬とかいう伝説上の鳥なのかな」と妄想が廻った。眞野のうっすらと残っている記憶を辿ってみた。

「大鵬は南方を目指す途中で巨大な木にとまり羽を休めるのだが、その大木は500年の間葉が生い茂り、また500年の間落葉の時を経る」、そんな話だと思った。

「俺なんかまだ50年も生きていない」と、何気なく眞野は悲しみを感じた。そして、まるで自分自身が夏にうっとうしく泣き続ける蝉のように思えた。

必死に木の幹にしがみつき、日が昇り沈む名で騒々しく泣き続ける。そして、秋が来ることも知らずに死んでしまう。

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