5. 路地

タクシーを降り近くにあった公園のベンチに腰掛けブランコを眺めた。

ほんのりとしたか風が心地よく花壇の花を揺らしていたがブランコはぶら下がったまま、無重力状態を保つように止まっていた。どれくらいのあいだ、そこにいたのかわからなかったが、たぶん10分とかそれくらいだったと思う。

ブランコの木でできた座椅子から視線を何気なく持ち上ると、薄暗いトンネルのような路地が奥に続いていた。公園の風はその路地に吸い込まれるているように花壇の花を揺らしていたのだ。

僕はその路地に心を持っていかれるように、まるで意志のような何かが僕を求めているように、そこに引かれてい行った。物理的な力が働いたわけではないと思う。ただ、路地が僕を呼んでいるような気がしただけだ。

それでも気が付いたときは、ベンチから離れ、公園のブランコの脇を抜け、路地のうす暗闇のなかにたたずんでいた。路地はさらに奥のほうにつながっている。振り返り公園の位置を確認しようと思ったが、来たはずの方向にも路地があるだけだった。細長く奥に行くほど暗闇につつまれるように路地が続いていた。

もしかしたら、いくつか角を曲がってここまで歩いてきたのかもしれないと僕は思った。怖さはなかった。僕の前と後ろにただ細い暗闇が伸びている、その黒い線のどのあたりに立っているのかわからなかったが、僕はたたずんでいた。

どちらが前で、どちらが後ろなのか、どちらから来たのかわからなくなった。方向はわからなかったが、本能的に僕は足を動かした。そのままじっとしてたら闇に含まれ、そこから出ることができなくなる気がしたからだ。歩いているうちに弱いほのかな明かりが路地を漂っていた。霞がよるの薄昏をさまようように。

路地から少しだけ奥まったところにある扉があった。その扉に僕は手をかけた。いや、正確にはへ手をかけようとしたが、重く震えている威圧感に気後れした。後ろを振り返ると膝の高さほどある看板のようなものが、薄白く路地を斜めに照らしている。

その看板を迂回気味に通り過ぎようとしたヒールがコンクリートを弾き、弓でこすられた弦の波動と同調した。スリットの入ったタイトスカートに戸惑い、僕ははとっさに扉を開けた。気が付かなかったが、路地には僕以外にも誰か歩いていたようだ。

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