25. 残されたものたち

「いや~、大損害だよ。山ちゃん」と首都大地震から数日が経過し電話がやっとつながるようになってから、純と山川が話していた。

「お前のところはどうだった?店は大丈夫なのか?」と純が続けて山川に聞いた。

「店はもう無理だよ、倒れて焼けて、消防の放水で水浸し。でもね、家族がみな無事だったから、それだけで十分だ。」と山川が答えた。

「そりゃそうだよな、家族さえ無事なら。自然には逆らえないしな」と純が言った。自然にはの所に特に力がこもっていた。

「お前は?」と山川も聞き返した。

「1千万近い借金だけ。独占中継の為に投資した分が水の泡だよ。CMのスポンサーも全額は払えないって言い始めているし」と純が言った。声だけ聴くと、大きく元気ないつもの話しっぷりだった。

「まさか、湯本の努めている会社のデータセンターまで逝かれちまうとはな」と山川も金だけで済んだことを慰めるように言った。

「そうそう、縦揺れって駄目なんだって。おれもデータセンターにそのと聞いたんだけどな、もうてんやわんやだったよ。無人化っていうのも、これまた当てにはならないもんだね。湯本には申し訳ないけど、自分の会社に回線引いてサーバー動かしていても同じだったな」と純が口数多く語った。

「みんな、どうしてるかな?誰かと連絡なんて取れた?」と山川が聞いた。

「仕事関係の奴らとはかなり電話できたけど、それ以外はお前が初めてだよ。で、お前どうするんだ?はり灸の店なんて作り直しても、この様子じゃあ誰も来ないだろ。少なくとも1年くらいは」と純が言った。

「なんにも考えられないな。まだこれから。でも、避難している近所の体育館もいつまでも入れないし、とりあえずどうにかして仙台にかえるわ。」と山川がボソッといった。

「まあなー、それしかないか。引っ越しとかあれば手伝うけど、なんか手元にのこってるのか?」と純が心配して聞いた。

「なんにもないよ、着替えもない。商売道具なんてもちろん使い物にならないし。でもね、こんな言い方も変かもしれないけど、何か吹っ切れた感じもあるんだよ。」と山川他言った。

「なにそれ、何もかも財産を失って吹っ切れるも何もないだろう」と湯本が言った。

「うーん、よくわからないっていうか、説明つかないけど。」と山からがあやふやな答え方をした。

「そういうのはね、山ちゃん、開き直ったっていうんだよ。でもね、それも一理あるねもう失うものも何もないから、家族が無事だったから。また頑張ればいいんだよ。」と純なりの解釈で答えた。

「頑張るのかどうかわからないけどね。そんな気力、直ぐには戻らないよ。だから、ふっきれたっつーの。わかれよ。」と山川が反論した。

「ところで、純は傾かななったのかよ?」と山川が茶化した。

「おまえ、言っていい冗談とダメなのがあるぜ。傾くも何も、最初からこんな感じだよ。トライアンドエラー。そして、また今回もエラーだっつうの。」と純が開き直って答えた。

「まだやるのか?東京に残って」と山川が聞いた。

「まあね。たぶん俺から商売取ったら何も残らないからね」と純が答えた。

「そうそう、湯本とは仕事の話もあったから電話したんだけどな、あいつの会社のそばに大きな公園会っただろ。桜がきれいに咲いているって。会社に行くに入ったけど、何も手につかずに部下と花見らしいぜ。」と純が言った。

「不謹慎って苦情でないのか?」と山川が聞いた。

「そうやって元気に見せるしかないんじゃね?あいつはサラリーマンしかできないだろ。寄らば大樹で頑張るんだろうな。でも、湯本らしいじゃないか、花見なんて。その辺の感じは高校自体のままだよな。」

「確かに、おれも花見でもしてみっかな。」と吹っ切れた山川が答えた。

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