東洋医学でいうところのツボ(経穴)を刺激すると、それに応じた生体反応が現れます。
おいしそうな食べ物の匂いがすれば、脳が刺激され、食欲が増進します。何かを食べると、胃が活発に働きだします。
食事もある意味、ツボの刺激のようなものなのでしょうか。味覚や臭覚が刺激され、アゴを動かし、舌を絡めながら咀嚼することで、まだ食べ物が到達していない、胃や腸まで活動を始めます。
食事のみならず、私たちは常に、目や耳、鼻、皮膚、舌など、さまざまな感覚器から入力される刺激に反応しています。
好きな音楽を聴くことで心が落ち着き、絵画を鑑賞することで創作意欲がわいてくることもあります。自然の中で深呼吸をすれば、全身に気がみなぎる感覚を得ることさえあるでしょう。
このように、心や体が健康であれば、健全な反応が起こります。でも、疲れているときなどは、食欲も減退しますし、音楽を聴いても楽しくありません。
まして、心が病んでしまうと、とても厄介です。
心身を統括する脳の働きに、絶対的な判断基準は存在しません。正常な精神だとか、病んだ心だとかを、脳自体が判別することはできないでしょう。
脳はただ、その時々の状態に応じて反応しているだけです。病んだ状態であっても、淡々と、そのときの状況や状態に応じた生体反応が営まれます。
そして、結果として現れる精神状態に、私たちは悩まされます。心が脳の反応についていきづらくなるのです。
生体反応による支配
病的反射をしてしまうときでも、脳の立場からすれば、それを病的と捉えることはできないでしょう。そのときの状態に応じた、勝手なふるまいをしてしまいます。
正常も異常も、ひとつの心身の中で同居しているような、自己矛盾が存在します。
たとえば、アトピー性皮膚炎にしても、リウマチ性関節炎にしても、自分自身の体を異物と認識してしまうことで発症します。
本来であれば、異物を認識し、それを排除しようとするのが、免疫系システムの役割です。
でも、自己免疫疾患とは、自分自身の体を異物と勘違いし、攻撃を加えるような病です。アトピー性皮膚炎やリウマチだけではなく、全身性エリテマトーデスなど様々な病気が、自己免疫疾患に分類されています。
そして、このような矛盾した状態は、体だけに起こるわけではありません。精神面においても、自分が自分自身を苦しめることは、珍しくありません。
うつ病などの気分障害、幻覚や妄想に取りつかれる統合失調症。また、病名がつかなくとも、人はみな様々な心の矛盾に苦しんでいます。
自己矛盾の意味
誰でも、多かれ少なかれ、心のなかに矛盾を抱え、苦しんでいます。
苦しみの要因が、自分の外に存在するのであれば、その要因から離れたり、排除するなどといった対処の方法があるのかもしれません。
しかしながら、心身を統括する脳自体が、苦しみの発生源だとしたら、そこから抜け出すことができるのでしょうか?
私自身の主体ともいえる脳が、私の意に沿わない反応をしてしまい、結果として現れる観念により、私を支配してしまいます。
外部要因ならば排除できるかもしれません。また、臓器が癌に侵されるなど、病巣が物理的な病的要因で阻害されているとしたら、外科手術や放射線、投薬などの治療方針を立てることが可能です。
でも、脳による支配から逃れるすべはありません。自分が自分に対し、どうやって抗えるでしょうか。
脳が発信する、なんらかの観念が、自分自身を支配しようとする営みには意味があります。進化の過程で人間の脳が獲得した、ある機能に起因しているのです。
観念による苦しみは、脳に備わった独特の仕組みに由来しています。
人はみな、逃れることが困難な苦しみを背負って生きています。
ただ、ほとんどすべての人々は、その苦しみを明確に自覚できていません。なぜならば、そこには苦しみを苦しいと自覚させない、巧妙に仕組まれたシステムが存在しているからです。
「自覚させない」という表現をしましたが、誰が自覚させないようにしているのでしょうか?このことについては、順を追って、解き明かしていきたいと思います。
以上のような脳の働きに、どう向き合い、どのように対処できるのかを、ひとつひとつ紐解いていきたいと思います。
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