無方 15. Acupuncture 山川は髪の毛よりも細い鍼(はり)を、まさに寸分の狂いもなく患者の経穴に打ち込んだ。素人がやったら、刺さるどころか簡単に鍼は曲がってしまう。利用する鍼は日本製、その細さは0.02ミリである。0.02ミリと言えば髪の毛よりも細い。材質は銀。ステ... 2024.09.09 無方
無方 14. 冷却液 坂本が所長室をノックした。すぐには反応が無かったが、返事を待たずにそのまま入室した。「きゃっ」と小さな声を出し朋子がドアの方向に視線を走らせた。少し前まで、給湯室でいちゃついていることは坂本も知っていたが、まさか個室に2人きりでいるとは思っ... 2024.09.09 無方
無方 13. データセンター エレベーターは使わず、非常用の階段をコツコツと降りてきた。最上階から1階までゆっくりと館内を回ることが湯本の日課になっていた。もちろん、警備員が日に5回館内を巡回してセキュリティ的に、あるいは設備面で、何か異常がないかを確認はしていた。だが... 2024.09.09 無方
無方 12. カブトムシ 日が暮れて、絹江と二人で軽く食事をしたあと、洋一とは直ヤンの道場を尋ねた。1階は受付や待合室、一般の人向け柔術道場やフィットネスジムがあり、2階に直ヤンたちプロが稽古する総合格闘技の道場があった。まだ引退試合まで10日以上あるというのに、雑... 2024.09.09 無方
無方 11. 薬指 絹江と洋一はブラブラと当てもなくお台場を歩いていた。まだまだ残暑は続きそうな強めの日差しだった。絹江のまっすぐな長い髪がそよ風に吹かれさらさらと流れた。木漏れ日のキラキラした光の妖精と戯れながら、ふたりは手をつなぎ歩いていた。「ヨウちゃん、... 2024.09.09 無方
無方 10. パラダイム 食べ終わって、近くのコンビニでコーヒーを買い、ふたりは公園のベンチに腰をかけた。その日は湿度も低く、少し早い爽やかな風が気持ちよく吹いていた。午前中の熱だまり対応をしていたせいで、ランチに出遅れた坂本もあとから合流してきた。ひとつとなりのベ... 2024.09.09 無方
無方 9. サバの味噌煮 同じ日の朝、湯本はいつもの時間になんとかベッドを出るに出た。が、しかし歯磨きの最中、腹の底からこみあげてくる嘔吐に襲われトイレに駆け込んだ。右手は歯ブラシ、左手は便器をつかみ、そこにしゃがみ込んでしまった。やはり夕べの酒が完全に残っていた。... 2024.09.08 無方
無方 8. breeze その晩の飲み会もお開きとなり、洋一はタクシーでホテルに戻った。チェックインは既に済ませて立った。新幹線で東京に到着し、ホテルへ荷物を置いてから飲みに出たのだった。部屋に戻るなり、洋一はそのままベッドにもぐりこんだ。ひと足先に部屋へ戻り、既に... 2024.09.08 無方
無方 7. 引退 新聞を読み終え、湯本は2杯目のコーヒーを自分で入れるため給湯室へ向かった。所長室を出て給湯室の少し手前の廊下で、営業担当の大島朋子とすれ違った。「所長、なんかイヤらしい焼け方でしていませんか?」と、朋子がからかうように湯本に近づいてきた。「... 2024.09.08 無方
無方 6. anger やはり怒りに満ちている。人工物というのは、どうもしっくりこない。あえて愚かなレールを敷いてしまう。そして、その軌道に未来という言葉を与えながら、盲目的にエネルギーが前へ前へと、催眠状態の個を推し進める。集団という見えない手段を使い、巧妙に操... 2024.09.08 無方