無方

25. 残されたものたち

「いや~、大損害だよ。山ちゃん」と首都大地震から数日が経過し電話がやっとつながるようになってから、純と山川が話していた。「お前のところはどうだった?店は大丈夫なのか?」と純が続けて山川に聞いた。「店はもう無理だよ、倒れて焼けて、消防の放水で...
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24. わかれ

頭の左側にあるスマートホンが鳴った。洋一は不意に起こされ、ゆっくりとした挙動で上半身を起こした。部屋は真っ暗で、街灯も店の看板も消灯したままであったため、窓のから差し込む明かりもなかった。「だれ?」とスマートホンが鳴る方向に体をひねり電話に...
無方

23. 想定外

「大震災から1週間たち、各国からの支援物資が続々と届いてる模様」「復興にかかる時間は現時点では何とも言えない。政府として最大限の努力を惜しまない」「山手線の周囲は、巨大な噴火口のように陥没しています」「首都直下型、マグニチュード8.5を超え...
無方

22. ヨウイチ

「気がつきましたか?」看護師が洋一の顔を覗き込みながら話しかけた。「先生を呼んできますから、少し待ってくださいね」「ここは?」洋一は病室を出て行こうとする看護師を呼び止めた。「ここは千葉にある堀川クリニック。個人病院なんだけど、大きなところ...
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21. うなり

右腕が“ズキン、ズキン”と疼いていた。建物の一角から火の手が上がっているらしく赤黒く血に染まったシャツを橙色に塗り替えていた。体の上に重なっている瓦礫を自由になる左手で動かそうとした。洋一に迫ってきた炎は全身を炙りだした。リングの床板だろう...
無方

20. 寸断

データセンターの会議室を借り平直行の映像配信を指揮していた立花は愕然としていた。モニターの映像が消えたと思ったその瞬間、床を突き上げるような衝撃に襲われたのだ。「なんだなんだ。全然映らないじゃないか」と立花がスタッフに怒声を浴びせた。「すみ...
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19. グラップラー

2021年9月22日 平直行引退試合。極真会、大道塾を経て正道会館黒帯、ブラジリアン柔術黒帯、シュートボクシング世界ホーク級1位、キックボクシングUKF世界ライトヘビー級10位、プロレスインディーワールドJr.ヘビー級王者、更にレスリング、...
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18. 絹江

「ホテルの荷物、あしたの分の着替え以外は送っちゃうからね。」と、絹江が洋一に話しかけた。明日の新幹線で仙台に帰るつもりでいた。手荷物だけ残し、それ以外はホテルのフロントから宅配便で送れるよう絹江はせっせと荷物をまとめていた。「2週間以上いた...
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17. システム

あくる日から、データセンター内でフリーライフ社のシステム構築が急ピッチで進められた。入館チェックを済ませた小林正樹はサーバールーム内のラックの扉を開錠した。彼はフリーライフに吸収合併された企業の社員である。フリーライフもまだ新興企業には違い...
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16. 懇親会

フリーライフ社のシステム担当者を契約予定のラック前まで案内したり、事前説明として入館時の注意事項を説明したりと、森が忙しく駆け回っていた。先月末、契約前の最終判断を兼ね、フリーライフ社の立花社長が施設の見学に訪れていた。「あまり大きな声で言...