無方 12. カブトムシ 日が暮れて、絹江と二人で軽く食事をしたあと、洋一とは直ヤンの道場を尋ねた。1階は受付や待合室、一般の人向け柔術道場やフィットネスジムがあり、2階に直ヤンたちプロが稽古する総合格闘技の道場があった。まだ引退試合まで10日以上あるというのに、雑... 2024.09.09 無方
無方 11. 薬指 絹江と洋一はブラブラと当てもなくお台場を歩いていた。まだまだ残暑は続きそうな強めの日差しだった。絹江のまっすぐな長い髪がそよ風に吹かれさらさらと流れた。木漏れ日のキラキラした光の妖精と戯れながら、ふたりは手をつなぎ歩いていた。「ヨウちゃん、... 2024.09.09 無方
無方 10. パラダイム 食べ終わって、近くのコンビニでコーヒーを買い、ふたりは公園のベンチに腰をかけた。その日は湿度も低く、少し早い爽やかな風が気持ちよく吹いていた。午前中の熱だまり対応をしていたせいで、ランチに出遅れた坂本もあとから合流してきた。ひとつとなりのベ... 2024.09.09 無方
無方 9. サバの味噌煮 同じ日の朝、湯本はいつもの時間になんとかベッドを出るに出た。が、しかし歯磨きの最中、腹の底からこみあげてくる嘔吐に襲われトイレに駆け込んだ。右手は歯ブラシ、左手は便器をつかみ、そこにしゃがみ込んでしまった。やはり夕べの酒が完全に残っていた。... 2024.09.08 無方
無方 8. breeze その晩の飲み会もお開きとなり、洋一はタクシーでホテルに戻った。チェックインは既に済ませて立った。新幹線で東京に到着し、ホテルへ荷物を置いてから飲みに出たのだった。部屋に戻るなり、洋一はそのままベッドにもぐりこんだ。ひと足先に部屋へ戻り、既に... 2024.09.08 無方
無方 7. 引退 新聞を読み終え、湯本は2杯目のコーヒーを自分で入れるため給湯室へ向かった。所長室を出て給湯室の少し手前の廊下で、営業担当の大島朋子とすれ違った。「所長、なんかイヤらしい焼け方でしていませんか?」と、朋子がからかうように湯本に近づいてきた。「... 2024.09.08 無方
無方 6. anger やはり怒りに満ちている。人工物というのは、どうもしっくりこない。あえて愚かなレールを敷いてしまう。そして、その軌道に未来という言葉を与えながら、盲目的にエネルギーが前へ前へと、催眠状態の個を推し進める。集団という見えない手段を使い、巧妙に操... 2024.09.08 無方
無方 5. 袋小路 山川は残りのビールをぐっとあおりながら、「何があったんだろう、今となっては真実も分からずじまいか。」と、少し赤らんだ顔でつぶやいた。山川は仙台に戻ってから渓流釣りに明け暮れ、悠々自適の生活を送っていた。洋一の一周忌があり、平直行を始めとして... 2024.09.08 無方
無方 4. タコ 停学事件を遡ること1年前、山川と湯本、直ヤン、純は高校の入学式の日に出会ったのだった。4人とも同じクラスだ。山川幸男と湯本嘉之は苗字で、平直行と立花純は下の名前でそれぞれ、“直ヤン”、“純”と呼ばれていた。その彼らが通った高校は、現在では男... 2024.09.08 無方
無方 3. 小僧 木村洋一は残りの日本酒をグッと飲み干した。当時はまだコンビニなどは無かった。自宅の近所にある酒屋の前に、日本酒やビールを売っている自販機が設置されていた。そこから買ってきたワンカップをひとビン空けたところだった。その直後、階段を誰かが足音を... 2024.09.08 無方