無方

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22. ヨウイチ

「気がつきましたか?」看護師が洋一の顔を覗き込みながら話しかけた。「先生を呼んできますから、少し待ってくださいね」「ここは?」洋一は病室を出て行こうとする看護師を呼び止めた。「ここは千葉にある堀川クリニック。個人病院なんだけど、大きなところ...
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21. うなり

右腕が“ズキン、ズキン”と疼いていた。建物の一角から火の手が上がっているらしく赤黒く血に染まったシャツを橙色に塗り替えていた。体の上に重なっている瓦礫を自由になる左手で動かそうとした。洋一に迫ってきた炎は全身を炙りだした。リングの床板だろう...
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20. 寸断

データセンターの会議室を借り平直行の映像配信を指揮していた立花は愕然としていた。モニターの映像が消えたと思ったその瞬間、床を突き上げるような衝撃に襲われたのだ。「なんだなんだ。全然映らないじゃないか」と立花がスタッフに怒声を浴びせた。「すみ...
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19. グラップラー

2021年9月22日 平直行引退試合。極真会、大道塾を経て正道会館黒帯、ブラジリアン柔術黒帯、シュートボクシング世界ホーク級1位、キックボクシングUKF世界ライトヘビー級10位、プロレスインディーワールドJr.ヘビー級王者、更にレスリング、...
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18. 絹江

「ホテルの荷物、あしたの分の着替え以外は送っちゃうからね。」と、絹江が洋一に話しかけた。明日の新幹線で仙台に帰るつもりでいた。手荷物だけ残し、それ以外はホテルのフロントから宅配便で送れるよう絹江はせっせと荷物をまとめていた。「2週間以上いた...
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17. システム

あくる日から、データセンター内でフリーライフ社のシステム構築が急ピッチで進められた。入館チェックを済ませた小林正樹はサーバールーム内のラックの扉を開錠した。彼はフリーライフに吸収合併された企業の社員である。フリーライフもまだ新興企業には違い...
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16. 懇親会

フリーライフ社のシステム担当者を契約予定のラック前まで案内したり、事前説明として入館時の注意事項を説明したりと、森が忙しく駆け回っていた。先月末、契約前の最終判断を兼ね、フリーライフ社の立花社長が施設の見学に訪れていた。「あまり大きな声で言...
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15. Acupuncture

山川は髪の毛よりも細い鍼(はり)を、まさに寸分の狂いもなく患者の経穴に打ち込んだ。素人がやったら、刺さるどころか簡単に鍼は曲がってしまう。利用する鍼は日本製、その細さは0.02ミリである。0.02ミリと言えば髪の毛よりも細い。材質は銀。ステ...
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14. 冷却液

坂本が所長室をノックした。すぐには反応が無かったが、返事を待たずにそのまま入室した。「きゃっ」と小さな声を出し朋子がドアの方向に視線を走らせた。少し前まで、給湯室でいちゃついていることは坂本も知っていたが、まさか個室に2人きりでいるとは思っ...
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13. データセンター

エレベーターは使わず、非常用の階段をコツコツと降りてきた。最上階から1階までゆっくりと館内を回ることが湯本の日課になっていた。もちろん、警備員が日に5回館内を巡回してセキュリティ的に、あるいは設備面で、何か異常がないかを確認はしていた。だが...